最高裁判所第二小法廷 昭和39年(オ)1485号 判決 1966年11月04日
上告人(本訴被告・反訴原告・控訴人) 臼海毛織有限会社
右訴訟代理人弁護士 谷村唯一郎
同 中村尚彦
被上告人(本訴原告・反訴被告・被控訴人) 山一織物株式会社
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人谷村唯一郎、同中村尚彦の上告理由第一点ないし第三点について。
論旨は、要するに、原判示の本件(1) 、(2) の為替手形は融通手形であると認定して上告人主張の人的抗弁を排斥した原判決は、手形法一七条の解釈、適用を誤り、最高裁判所判例に牴触し、理由不備ないしは証拠によらないで事実を認定した違法がある、というのである。
しかし、原判決(第一審判決理由を含む。)の判示した事情のもとに、上告人が本件(1) 、(2) の為替手形二通を振り出してこれを訴外川浦に裏書譲渡したのは、訴外国枝が訴外川浦から融通を受けた原判示の(イ)、(ロ)、(ハ)の為替手形三通の支払資金を右川浦に提供することを確実にするためであって、換言すれば、上告人は、本件手形が右川浦から第三者に裏書譲渡されることのあるべきことを予測し、その譲渡せられた場合において被裏書人となるべき第三者に対して本件手形上の責任を負う意思であったとした原審の事実認定は、原判決挙示の証拠に照らして是認することができる。右事実に基づき上告人主張の抗弁を排斥した原審の判断は正当であって、所論の違法はなく、所論引用の当裁判所判例に牴触するものではない。所論は、独自の見解に立脚し、原審の認定にそわない事実に基づき、原判決を非難するものであって、採用できない。
同第四点について。
弁済期の到来した債務の弁済は原則として詐害行為とならず、ただ、債務者が或る債権者と通謀し、他の債権者を害する意思をもって弁済した場合にのみ詐害行為となるにすぎないと解すべきことは、所論引用の大審院判例の示すほか、当裁判所の判例(昭和三一年(オ)第四二〇号同三三年九月二六日第二小法廷判決、民集一二巻一三号三〇二二頁参照)とするところである。
反訴請求について原審の確定したところによると、訴外川浦は被上告人(反訴被告)に対する買掛金債務の弁済のため原判示(1) および(2) の為替手形を裏書譲渡したというのであるが、右裏書譲渡が訴外川浦と被上告人とが通謀し、他の債権者を害する意思をもってなされたものであることは、原審において上告人の主張しないところであり、従って、原審の確定しないところである。してみれば、原判決が、第一審判決理由を引用して、右裏書譲渡は詐害行為にあたらないとしたのは正当であって、原判決には所論の違法はない。所論の原判示は、本訴請求の判断の過程において、前記裏書譲渡のなされた日時の認定にあたり言及したものであるが、右裏書譲渡が訴外川浦と被上告人との通謀にもとづきなされた旨判示したものでない。
所論は、原審において上告人の主張せず、従って原審の認定しない事実にもとづき、原判決を非難するものであり、その前提を欠くものであって、採用できない<以下省略>
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)
上告代理人谷村唯一郎、同中村尚彦の上告理由<省略>